哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
「ふうん、それじゃあ絵美ちゃん、学校休んだんだ」
 佐枝から絵美の様子を訊いた美鈴が言った。 休み時間、いつものように美鈴は榊啓介や杉山義男、佐伯佐枝と一緒にいた。最近はクラス委員の大野孝や和田美佳も顔を見せるようになってきている。
「相当ショックだったみたいよ。それから不安定になっちゃってね」
 佐枝は妹を気遣っている。
「でも、許せないわね。抵抗できない動物を殺すなんて…」
 美佳の正義感に火がついた。
「だけど警察に届けたんだろう?」
「何言ってるのよ。動物が殺されたくらいで警察が動いてくれるわけないでしょう」
 美佳は大野には相変わらず冷たい。
「しかし変なことが続くよなぁ」
 義男が腕を組んで思い返している。
 昨年の夏、そして今年の冬…。
 オカルトめいたことがこの学校、このクラスに起こっていた。そのせいなのか、一年から二年に上がる際に何人かが他の学校に転出して行ってしまった。
「偶然だよ、偶然」
 啓介が義男の言葉を打ち消す。
 だが、美鈴は知っていた。
 それらの出来事がこの世には存在していない『もの』が引き起こしていたことを…。
『もの』とは肉体を持たない霊魂や物の怪といった存在の総称だった。その言い方は美鈴の一族に古くから伝わっているものなのだが、詳しいことを母は教えてくれてはいない。
 それらは普段、生きている人間に関心を持つことはないのだが、憎悪や嫉妬などという負の強い感情に支配されたとき、『もの』は人に危害を加えるのだ。
 それが夏の事件であり、冬の事件であった。
 だが、そんなことを言っても誰も信じてはくれないだろう。美鈴はその真実を独り胸のうちに収めていた。
 その美鈴を啓介は複雑な思いで見つめていた。彼は美鈴の中に『紅い菊』という存在が棲み着いているのを知っていた。そしてそれは忌むべき存在だと教えられてきた。その忌むべき存在を亡き者にする運命を彼は背負っていた。
 二人がそういった秘密を持っていることを他の者は知らない。いつか美鈴との友情が壊れてしまうだろうと啓介は思った。
「とにかく、早く落ち着くといいわね」
 美鈴は妹のことに気を病んでいる佐枝の肩を叩いた。
 佐枝は「ありがとう」と応えた。
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