哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
 恵は派出所で見た逆五芒星を気にしていた。 動物を傷つけて作られた逆五芒星は既に完成していた。そして、その一点の近くに今回の死体遺棄現場がある。恵にはそれが偶然のこととは思えなかった。
 あの地図を作った三島は事件現場をただプロットしただけではなかった。それぞれの事件の発生日を記載していた。そのために五芒星という形が浮かび上がってきたのだった。 事件は全て日曜日の深夜、月曜日の早朝に起こっていた。確たる証拠もなく、犯人は見つかっていない。
 そして今回、人が犠牲になった。
 恵にはこれらの出来事が全く無関係だとは思えなかった。
「それで、嬢ちゃんはこの動物虐待と今回の事件が繋がっていると?」
 小島は考え込む恵に言った。
「ええ、動物虐待をしていた者が人を殺す、という例もあります」
「どんな例だ?」
「神戸の酒鬼薔薇聖斗の事件などがその例です」
「ああ、あの事件か…」
 小島も古い記録を探すように恵が言った事件を思い出した。
 酒鬼薔薇聖斗の事件とは、一九九七年神戸市で発生した連続児童殺傷事件のことを指していた。
 二月から五月にかけて五人の小学生が襲われ、二人が重傷を負い、二人が死亡した手いる。。最後の犠牲者となった少年に至っては死亡させた後にその首を切断し、切り取った首を鑑賞し、少年の血を飲み、中学校の正門前にその首を遺棄した事件である。
 その際に『さあゲームの始まりです』から始まる手紙を口に咥えさせて警察を挑発している。
 酒鬼薔薇聖斗とはその手紙に添えられた犯人の名前である。
 警察に逮捕された犯人は少年であり、その犯行の残忍さと犯人が少年であったという意外性から世間を震撼させた。
 この事件以前、付近では首を切られた鳩の死骸、首を切られた猫の死骸、両脚を切り取られた猫、腹を割かれた猫などが発見されている。
 少年はアンバランスな第二次成長期を過ごしており、これら残酷な行為を行うことによって性的な興奮を覚えたとされている。
 この事件の最中、少年は「実験ノート」と称する日記をつけており、その中で『バモイドオキ神』という『神』を作り上げていた。「そうか、あの事件でも小学生達が襲われる前に動物虐待が行われていたな」
「そうです。彼の場合は動物を傷つけることで性的興奮を覚えていました。やがてそれがエスカレートして殺傷事件に及んでいます」 恵はまるで目の前の資料を読み上げるように小島に説明した。
「しかし、動物虐待をする者が全て殺人を犯すわけではないんじゃないか?」
 小島は恵の説明を聞いて疑問を呈した。
「仰るとおりです。けれどもシリアルキラうーの中にはこのような経過を辿る者が少なからずいるというのも事実です」 
 恵の言葉がしんとした廊下に吸い込まれていく。
「それにあの五芒星です」
「?」
「あの五芒星が示すとおり、犯人は何らかの法則に従って犯行を犯しています。一つはその場所、もう一つは犯行の曜日。もし今回の死体遺棄事件の犯人が同一であった場合、やはり何らかの法則に則って犯行を行うはずです」
「しかし、それはまだわかっていない」
「その通りです。これは可能性の問題です。でもわかったときには遅いんです。次の犠牲者がでてしまいますから…」
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