哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
 立ち入り禁止のテープの外で横尾は内部の様子を窺っていた。
 彼がこの事件を知ったのは警察無線が聞ける小型の受信機からだった。だが、すぐさまサイレンを鳴らして走る警察車両を追尾することは出来なかった。何故なら彼の乗るオートバイは排気音が大きすぎて目立ってしまうからだった。そのため、彼が現場に着いた頃には報道陣や野次馬で群れが出来ていた。それでも、その人混みをかき分けて何とかこの場所を確保したのだった。
 しかしこの場所でも中の様子を窺い知ることは難しかった。
 何とか出来ないものだろうかと考えていたとき、テープの向こうから見知った顔の男が若い女を伴って出てきた。
 小島良だった。
「小島さん」
 人混みをかき分けて近づくと横尾は小島の名を呼んだ。
 急ぎ足で出てきた小島の足が止まる。
「よう、あんたか」
 小島は応えると恵に横尾のことを紹介した。
 二人は軽く会釈を交わす。
「どうなんです、被害者の様子は?」
 横尾は意味ありげに質問した。
 その言葉から小島は横尾がこの事件に関して情報を全く持っていないわけではないことを察した。
「ノーコメントだ」
 小島は冷たく言い放つ。
 しかし横尾は食い下がる。
「普通の遺体じゃあないんでしょう?」
 その言葉は二人の刑事を凍り付かせた。
「あなた、どこまで…」
「ノーコメント!」
 言いかけた恵を遮る様に小島が叫ぶ。
 しかし横尾にとってはそれで十分だった。この事件の被害者は普通の状態ではないことがこれでわかったのだ。
 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「前の遺体は血が抜かれていたんでしょう?」
 こちらが警察内部にまで情報網があることを相手に見せつけなければならない。今隠してもいずれ自分はそれを知ることになる、横尾は二人にそう知らしめた。
「まったく、お前さんは…」
 小島はそう言うと自分の携帯電話で撮った写真を横尾に見せた。
「これは…」
 横尾は言葉を失った。
「酷いだろう?」
 小島は携帯電話を閉じた。
「こんなことが出来るのは人間じゃない…」
 小島は吐き捨てるとその場を去っていった。
 そう、人間じゃない。あのようなことが出来るのはこの世に存在するものではない。小島が示した写真が横尾が体験した過去の事件の映像と重なる。家族を奪ったあの事件。それに似た遺体の様子だった。
(とうとう見つけた)
 横尾の目が鋭く光った。
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