哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
 半人半蛇の死体を前にして小島と恵は息を呑んだ。
 これまで奇妙な事件に出会ってきたが、このようなものにでくわしたことがなかったからだった。
 二人はしばらくの間、言葉を失っていた。
 やがて応援のパトカーが次々と到着する。彼らもまた倒れたまま動かないこの未知なる物体を目の当たりにして声を発することも出来なかった。そんな中で鑑識課員の岸田だけが興味深げにこの物体に近づいていく。
 横尾はそんな彼らの反応を面白げに見ている。彼らには無理もない反応だろう、彼はそうも思っていた。
 暫くして我に返った小島はそんな横尾に近づいていった。
「いったいあれは何だ?」
 小島の質問にも横尾はただ笑っているだけだった。
「お前さんなら知っているんだろう?」
 小島は更に詰め寄る。
 しかし横尾はそれに対して「知らない方がいいですよ」とまともに答えようとはしなかった。
 近くでは恵が応援に駆けつけた太田昌義に説明をしようとしていた。だが当然のごとくそれは要領を得たものにはならなかった。
「いったい何を隠している?」
「小島さん、あなたにプレゼントがある」
 横尾は小島の右手を出させ、その掌に数発の銃弾を乗せた。それは普通の縦断ではなく、日の光を受けて鈍く銀色に光っていた。
「これは?」
「銀の銃弾ですよ。残念ながらあなた方の武器ではあれらは倒せない」
 横尾の言葉に小島は先ほどまでの光景を思い返した。確かに、小島の撃った弾丸はあの化け物の体を貫いたが、何のダメージも与えることは出来なかった。横尾が現れなければおそらく自分たちも三崎の後を追っていたに違いない。あのとき、なぜ自分の撃った銃弾が何の効果もなく、横尾の撃った銃弾に効果があったのかがわからなかった。
 その答えが今、小島の手の中にあった。
「これからもこんな事件が起こるでしょう。そのときのための用心ですよ」
 横尾がそう言ってその場を去ろうとしたとき、恵が二人の方に近づいてきた。
「ありがとうございました。あなたが居なかったらどうなっていたかわかりません」
 恵はそう言うとにこやかに右手を差し出した。
「いえ、気になさらないでください」
 横尾も微笑みながら右手を差し出し、恵の手を握った。
 そのとき、ガチャリという音と共に横尾は左の手首に冷たい感触があるのを知った。
 見下ろすとそこには手錠が光っていた。
「え…?」
「あなたを銃刀法違反で逮捕しますゎ」
「な、何でです。あなた方を助けたではないですか…」
「それについてはお礼を申し上げました。でも、あなたの持っていた物、ベレッタでしょう?」
 恵は微笑みながら、それでも力強く手錠を引き、彼を連行していった。
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