家元の寵愛≪壱≫
「そんなに煽んなって」
「…………煽ってなんていませんよ」
「いや、煽ってる」
「煽ってません」
「煽ってんだろ!」
隼斗さんは優しい手つきでパジャマのボタンを留めてくれた。
本当は煽ってみた……私。
初めてといっても過言じゃない。
熱に浮かされているとは言え、
意識はしっかりしているのだから。
『煽る』という事がどういう事なのか
最近になって漸く解って来たような気がする。
今は例え演技をしたとしても彼に傍に居て欲しかった。
他の誰でも無く、私だけを見ていて欲しくて。
身体がサッパリしたら、何だか眠くなって来た。
後片付けを済ませた彼が布団の中に潜り込んで来て
そっと私の身体を抱きしめてくれている。
「……風邪が………うつり……ますよ?」
「………いいよ。ゆのの風邪なら貰っても」
彼の腕の中は心地良い。
布越しに伝わる彼の鼓動も心地良い。
ゆっくりと紡ぐ低めの優しい声音も心地良い。
何もかもが心地良くて、自然と瞼が落ちて行った。