Fragile~思い出に変わるまで〜
立ち上がりかけた体をもう一度ソファーに預け、私はそっと息を吐く。


それから一緒に目撃してしまっただろう桜井に、口止めしなければと、顔を上げ声をかけた。


「桜井君……」


「……はい」


彼の目線はまだ窓のそとのままだ。


「今……見たことは誰にも言わないでもらえるかな?
……本人にも…ねっ?」


私は人差し指を唇に当てて、内緒のポーズをとる。


「それと……

私が来たことも内緒にしてくれる?

受付の女の子にはうまくごまかしといてもらいたいの」


両手を合わせて今度は拝むように頭を下げると、彼は仕方ないというように渋々頷いた。


「そのかわり、なんかあったら必ず電話してくださいね?約束ですよ?」


「うん、わかった

ありがとね?桜井くん」


こうして微笑むことが出来てるのは、彼のおかげだ。


あの二人が一緒にいるのを目撃して、傷ついてるはずなのに泣かないでいられるのは、桜井くんがそばにいてくれたから。


今の私には彼の存在が、本当に有り難かった。


< 201 / 589 >

この作品をシェア

pagetop