脱力系彼氏
 慌てて水気を切り、ぐちゃぐちゃになった髪を少し整えて、あたしは机の上に散らばった物を鞄の中に押し込んだ。
鞄を強引に掴んで、クーラーの効いた涼しい教室を勢いよく飛び出す。

あたしがパタパタと走るのを見て、何人かに「元気だねぇ」なんて笑われた。


校舎の端にあるクラスに辿り着くと、あたしはもう1度髪を整えてから、教室をひょっこり覗いた。


楽しそうな笑い声や話し声が聞こえる。


愛しい人の姿は、



……くそう。遅かったか。


小さく口を尖らせて、くるりと踵を返す。と、同時に視界に入ったのは、目の細い、見覚えのある顔。

確か、昇ちゃんの友達。名前は……何だっけ。鈴木君だったかな。

「綾ちゃん、昇と帰んの?」

「そのつもりだったんだけど、……帰ったみたい」

実際に結構落ち込んでいるものの、あたしはわざとらしく肩を竦めてみせる。

「あ、昇、さっき帰ったばっかだからさ、まだその辺にいるかもよ」

「ホント?!」

「うん、追いかけたら間に合うかも」

「ありがとうっ!」

全部言いきらないうちに、あたしは駆け出していた。もちろん、昇降口の方へ。


やるじゃん、鈴木!

(多分)鈴木君の言葉で、一気に嬉しさが舞い戻ってきた。
あたしは、さっきよりも大急ぎで昇降口へ向かった。
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