脱力系彼氏
 あたしがもそもそ食べるのを横目で見ながら、冴子は化粧を直し始めた。見計らってお弁当の蓋を閉めようとすると、鋭い爪で思い切り頬を抓られた。

「残すな、馬鹿! 最後のお弁当だろ!」

あ、明日から短縮授業なのか。

仕方無くもう1度蓋を開け、残りを食べる事にした。最後、なんて聞いたもんだから少しでも食べなきゃ、という気になった。


「じゃあ、今日はカラオケでも行くか!」

あたしは突然の冴子の提案に、単純に驚いた。

「え?」

「もちろん、女2人で」

そう言うと、冴子はニヤリと笑い、ブイサインを作った。


ほら。だから冴子は好き。
何も聞いてこないくせに、何でもお見通しで、いつも心配してくれる。元気づけてくれる。

「うん!」

あたしが返事をすると、冴子は大きな目を半分にまで細めて白々しい顔をした。

「その代わり、ドリンクは綾の奢りねー」

「え、やだ! 自分で払ってよ!」

「あたし、明日給料日だから、今お金あんまり持ってないのよ」

「ええっ、あたしだって、バイトしてないのに!」


こんな下らない会話で、元気が出てくる。不安を、少しだけ忘れられる気がする。

冴子には感謝しなきゃいけない。
気が少しだけ楽になったような気がしたから。
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