天を衝く槍


それから何日か経ち、三月になった。


体も順調に治り、もう少しで病院も退院する。


…腹の傷が治れば。


「コウガーごはん食べよー」


まだ肌寒いが、外で日向ぼっこをしていると、どこかの病室の窓から身を乗り出してアルが叫ぶ。


おいおい落ちるんじゃないか。


私の心配を余所に、彼女は窓から本当に落ちた。


「マジカー!!!」


慌てて私が受け止めに行くが、彼女はまるで木から落ちる猫のように、空中で一回転して地面に着地した。


それを見た私はなんともいえない脱力感に襲われ、腹が痛んだ。


「どうしたの、コウガ。ゲッソリして。早く行かないとカツアゲ定食なくなるよ?」


「………………………」


色々ツッコみたかったが、そんな気分にはなれなかった。


あれから私はアルとヨースケ、二人にちゃんと謝って仲直りをした。


……いや、ケンカ…をしてたわけじゃないけど。


彼女たちはもう退院し、生き残ったウサギを倒している。


ただ、ジルがまだ集中治療室から出てこないし、意識もない。


脳をやられた可能性が高いらしいが、はっきりしたことはまだ分かってない。


今の所、医者たちは何らかの状況で彼が植物状態になっている、と見解を述べた。


そしてフィーネさんやギル達の葬儀を行ったのは、昨日。


随分と寂しくなったこの部隊と、研究する部隊の来年度の募集は、しないそうだ。


Lunaがいないこの世に、私たちのような者を作る必要はないというソンジュさんの意見だ。


それに、不満を持っている人達が集まって国を作った時、万が一、戦争になれば、何かにつけて手に入れようと狙われるのは、私たちやあの肉体増強剤を作った人達だ。


元々ここは孤児院だったらしく、ソンジュさんはあるべき姿に戻す、と言っていた。


そんな日が来るのは、遠くはない。


なんとなく、そんな気がした。
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