ブラック王子に狙われて②
10月上旬のある日。
中間試験を間近に控え、
俺の自宅に向かっている最中で。
「慧くんっ、ちょっと待って?」
「ん?」
ドラッグストアから流れて来る曲に耳を澄ませる彼女。
最近のお気に入りの曲らしい。
正確には、アーティストが好きなのだと思うけど。
俺らがイギリスにいる間に、
突如現れた、謎のシンガーソングライター。
ハスキーな声なのに、艶っぽくて色気がある。
骨太のハードロックからR&Bやバラードまで歌いこなし、
グルーヴィーな曲調やエッジの効いたサウンドも完璧にこなす変幻自在な歌手。
楽器演奏も多才で、挙句の果てには作詞作曲までこなすというから驚きだ。
しかも、メディアに一切姿を現さないスタンスらしく、
そのミステリアスなコンセプトにハマりまくりの絢。
ユウの彼女と一緒になって、毎日のように聴いているらしい。
別に、聴くなとは言うつもりないけど。
俺以外の男に夢中になる姿を見たくないだけ。
確かに、歌や演奏は上手い。
上手すぎるんだけど……。
なんか、めちゃくちゃ腹が立つ。
得体のしれない奴に、焦がれるみたいな素振りが。