赤い月 参

いや、ここに自分を縛りつけて炎で包んだうさぎを、恨んでいるわけではない。

むしろ感謝している。

さっきまで雄々しく枝を広げていた木々が、マッチ棒のようにバタバタと倒れていく。

天に昇る渦巻く水が、枯れ葉や石どころか倒れた巨木まで巻き込むような強風を生み出している。

そして、暴れだした『闇』…

『その身を千に引き裂かれて死ぬがいい』

ドラゴンのその言葉通り、見た目だけではわからない力のせめぎ合いが行われ、生身の人間など一溜まりもなく圧し潰されてしまうのだろう。

青く薄いセロファンで覆われたような視界の向こう側は地獄の様相を見せているのに、この炎の中にはなんの被害も及ばない。

それどころか、熱くさえない。

< 192 / 223 >

この作品をシェア

pagetop