結婚白書Ⅰ 【違反切符】


彼女の家は 海を望む高台の住宅地の一角にあった。

5日間通った道は 見慣れた風景になっている。



「明日は 何時の飛行機ですか」


「最終便 19時発だったかな 和音さんが空港まで送ってくれるの? 

ラッキー」



そんなこと頼めないけど わざとおどけて言ってみた。

ところが 彼女から思わぬ言葉が



「えぇ いいですよ じゃあ明日4時頃でいいですか?」


「えっ? 冗談だよ 本気にするじゃないか いいって いいって」


「あら 私 本気ですけど それとも迷惑?」


「迷惑だなんて・・・それじゃあ頼もうかな」


「了解!」



真面目な顔して敬礼をしてる。

その顔 おかしいよー 笑いがこみ上げてくる。

彼女もつられて笑い出す。



違う こんなこと話したいわけじゃない

もっと大事なことを話さなきゃ

明日は東京に帰るんだ


うーん そうだなぁ 


”お互いを良く知ってから結論を出しましょう!”

”このままもう少し付き合ってみませんか?”


こんなところかな

彼女だって 会って5日間で答えを出せなんて迷うだろうし

でも、どんなふうに切り出そう・・・


どんどん彼女の家が近づいてくるよー

あーもういいや 明日空港に行くときに話そう

今夜はナシ!





「そこの公園で止まって! 喉が渇いちゃった」



住宅地のはずれにある公園は 海が一望できる展望台にもなっていた。

暗い外灯に ブランコと鉄棒が照らされている。

公園の隅に ひっそりとある自動販売機。



「コーヒーで良いですか?ちょっと待っててくださいね」



自販機でコーヒーを買った彼女が車に戻りかけて 思い立ったように

公園の奥へと歩き出した。

程なく 車で待つ俺に ”きて きて” と手招きをする。


呼ばれて行くと 缶コーヒーを渡しながら ”ほら” と眼下を示す。 

その先を見ると・・・



うゎ~夜景だ!



「ここね 穴場なんですよ 花火大会のときなんて 

わざわざ会場に行かなくてもここで見られるの」


「へぇーそうなんだ ここ特等席だよ」



もらった缶コーヒーをあけて飲んだ。

俺がブラックしか飲まないのを ちゃんとわかってくれている。

そんな 些細なことが嬉しかった。



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