結婚白書Ⅰ 【違反切符】


自販機横のゴミ箱めがけて空き缶を投げると

カランカランと いい音をいわせて缶が収まった。



「ふふん なかなかの腕だろう?」



そう言って彼女の方を振り向くと なんだか様子が変だ。

缶コーヒーを握り締めて 下を向いたまま身じろぎもしない。



「どうしたの?」


「毎日帰るのが憂鬱で・・・また今日も同じことの繰り返しかなって

母もおばも 返事はどうしたのと そればかりで・・・」



いまだ 今聞こう!



「和音さん 僕らはまだ出合って間もないよね 

お互いを良く知ってから結論を出しませんか

このまま もう少し付き合っていき・・・」



俺の言葉が終わらないうちの彼女の声が被った。



「桐原さんはそれで良いかもしれないけど 

私 毎日毎日 母とおばから言われて・・・

桐原さんって アナタに何にも言わないの? 

ただズルズルと会ってるだけじゃないの?

そんなハッキリしない人は お断りしなさいって」



えーっ なんでそうなるの!

お断りしなさいって 勝手に決めんなよ

ちょっと待ってくれ



あれっ 涙?



彼女の手に ポトン ポトン と落ちてきた。

大粒の涙が だんだん加速するかのように

次から次へと落ちてくる。


うわぁ どうしよう

落ち着け 落ち着け
 


「私も桐原さんの気持ちがつかめなくて そうなのかなって・・・」



心臓が”ドクン”と鳴った そんなこと考えてたんだ

でも そうだよな

俺だって 毎日毎日お袋たちに責められて

俺は男だから 「うるさいよ!」で済むけど

和音さんにとったら 針のムシロだったかも・・・



缶コーヒーを握り締めて静かに泣く彼女が たまらなくいとおしくなった。

今日まで一人で頑張ってきたんだ。

そんなに不安にさせてたなんて・・・



缶コーヒーごと彼女を抱きしめた。

彼女の肩が揺れて だんだん嗚咽がもれる 声を押し殺すように泣いている。




< 17 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop