やわらかな夜
コンコン

窓ガラスをたたく音に視線を向けると、あかりだった。

俺が助手席のドアを開けてやると、あかりはそこに腰を下ろした。

「兄貴は?」

そう聞いてきたあかりに、
「店があるからって」

俺は答えた。

「そう」

何となく、俺とあかりの間に沈黙が流れた。

先に破ったのは、
「さっき、婚約者に会った」

あかりだった。

「うん」

俺は返事をした。

「それだけ」

「そうか」

「あたしたちも帰ろうか?」

あかりがそう言ったので、俺は車を走らせた。
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