やわらかな夜
その声に視線を向けると、
「――有村さん…」

彼女だった。

有村が俺に歩み寄ったので、
「見つかりますよ」

俺は彼女に言った。

「あら、誰に?」

そんなことを言った俺に、有村はフフッと笑った。

彼女の手が俺に向かって伸びてきたと思ったら、俺の頬に触れた。

触れた手は、なぞるように過ぎて行った。

「別に、見られたってどうってことないでしょ」

呟くように言った後、有村は大きくなったお腹に手を乗せた。

「どうせなら修司、あなたの子だったらよかったのに」

有村は呟くように言った後、息を吐いた。
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