お姫様の作り方
そんな、声がした。
少しだけ低くて、でもよく響く耳に優しい音。


さく、さくと地面を踏んであたしの方に近付いてくる。
…見たことのない顔だ。もっとも、あたしは人の顔と名前を覚えるのが苦手なのだけど。


「毒リンゴに見間違えてしまうほど、あなたは物語の白雪姫にそっくりですね。」

「……誰?」

「今日、転入手続きの関係で来たのですが、迷ってしまって。」

「転入生?」

「はい。神谷洸(カミヤコウ)といいます。」

「そう。」


じゃあ知らないはずだ。
それにしても、まつ毛が長くて綺麗な顔をしている。色も白いし、髪が少し茶色っぽくなければ彼こそ白雪姫みたいだ。
…ってそうだ!あたしは白雪姫なんかじゃない。


「あたしは白雪姫なんかじゃない。」

「そうですね。ですからそっくり、と言いました。」

「っ…。」


確かに、彼はあたしを白雪姫だと断言したわけではない。…ここは食ってかかるべきじゃなかったのかもしれない。


「もし良ければ、名前を教えていただけませんか?」

「なんで?」

「せっかくこうして出会えたのですから。
名前が分からなければ、探すこともできないでしょう?」

「は、探すってなに…?」

「この場で別れてしまっては、この広い校舎のどこかでばったり出くわすのを待つしかない。ですが手がかりがあれば、もっと会いやすくなるはずです。」


爽やか、とは少し違う、…なんて言うのが適切なのかは分からないけど、とにかく優しい笑顔を浮かべてさらっとそんなことを言ってのける神谷洸は、何か不思議な抗えない力を持っていると思う。


「名乗りたく…ない。」

「どうしてですか?」

「…色々、ある。」

「なるほど。口にしたくないというのでしたら、どうでしょう?学生証でもお見せしていただければ。」

「…そんなに知りたいの?」

「はい。この学校に来てこうして話したのはあなたが初めてですから。」


穏やかな雰囲気の中に、どこか我を通す強さみたいなものを感じたあたしは、渋々ポケットから学生証を出した。顔写真は指で隠す。

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