お姫様の作り方
* * *


「…お腹減った。」


お気に入りのスペースまでやって来た。中庭の片隅が、実は人気も少なくて落ち着くということは高1の夏の終わりに気付いた。それ以降、誰にもこの場所は話していない。


芝生の上に腰を下ろして、カバンを開ける。まずはパンを食べてしまおう。そしてそれが終わったら…。


「…リンゴ。」


絵本の中に出てきそうなくらい真っ赤なリンゴが一つ。
…人前で食べたくないものワーストワンだ。


今、仲良くしているクラスメートに不満があるとか、友達にもイライラするとか、そういうことはない。そういうことじゃない。
友達は友達で仲が良いし(少なくともあたしはそう思っている)、あたしを白雪と呼んで遊んでいることも分かっている。
でも、どうしても人前でリンゴは食べたくない。…大好きなのだけど。いや、リンゴだけじゃない。人前で人並み以上には食べたくない。


「…面倒、なんだもん。」


そう。言ってしまえば面倒なのだ。本物の白雪姫みたいとかいう言葉に反応を返すことも、何もかも。その上イメージを崩して変にがっかりされるのも。あたしは心穏やかに食べたいものを食べたい時に食べたいだけなのに。


クリームパンは三口で食べ終わった。チャイムも鳴ったし、人はいない。今は授業中だ。
―――だからこそ、心気なく食べることができる。


「いただきます。」


リンゴは丸かじりに限る。赤いリンゴを一口、かじった。





「毒リンゴ、じゃないですよね?」

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