オルガンの女神
黄色い外壁の玩具屋(hobby shop)。
赤、青、緑の看板。ポスターが貼られた硝子扉。両脇を挟む植木。
扉前までの間、何丁もの銃口が後頭部を狙っていた。
ベックはふんと鼻を鳴らし、扉に指先を掛ける。
「失礼しますよ、と」
薄暗い店内。
すると突然、ゴム床材を踏む足音が聞こえた。
「あ、ああ、あん、あんたが“お調子者(ウッドペッカー)"だ、だだ、だな?」
「ああ。これピザ、まだ冷めてないといいんだけど」
現れたのは覆面を被った男。
肉付きの良い体格。軍手を嵌めた手には自動式拳銃が握られている。
「遅かったね、お調子者(ウッドペッカー)」
遅れて現れたのは、ブロンドの長髪が印象的な女性。
威圧的な瞳。筋が通った鼻。薄い唇。耳を飾るピアスの数々。
肩を露出した、ミニ丈のニットワンピ(黒)姿。
名を、レヴィ・ウォッカ。
「やあ、“黒姫(ティーチ)"」
ヒール音が近寄り、ベックからピザを奪う。
掃除屋(クリーナー)の業界では、無闇に素性を明かす事を禁止(タブー)としている。
その為、依頼主(クライアント)の前では通称で呼び合うのだ。
「ご苦労様」
「大騒ぎだな。もっと穏やかに事を運べなかったのか」
「あんたがそれを言うの」
皮肉な言葉にも、お調子者(ウッドペッカー)は笑みを崩さない。
ピザを一切れ取り、覆面の男を横目で見る。
男はおどおどと外の様子を気にし、仕草には焦りや苛立ちが見える。
“八人"の人質は目と口を塞がれた状態で拘束されていた。腹部に巻かれているのは、おそらく“爆弾"であろう…───。
「依頼内容は」
依頼先/
オルガンの女神
依頼担当/
レヴィ・ウォッカ
(※ベック・ローチ)
依頼主/
匿名(覆面の男)
依頼内容/
逃亡間の護衛。
依頼報酬/
80万$(シル)
(※1$=1円)
「帰ったら一杯奢ってくれよ」
「ええ、もちろん」
依頼開始
~mission start~