結婚白書Ⅱ 【恋する理由】


車は いつのまにか海岸に来ていた


車をおりて 二人で堤防を歩く

手をつないで歩くのは久しぶり

彼の大きな手は 私の手をすっぽり包み込む


私の手が好きだと言ってくれたのは いつだっただろう




「潮の匂いって やっぱりいいな」


「そうね」


「来週 また海に行こうな」


「うん そうだね」


「結婚しても一緒に行ってくれるよな」



いま いま なんて言った?

”結婚しても” って言ったわよね



「ねぇ そんな大事なこと なんでさらっと言うのよ

私の顔を見て言ってよ 聞いた気がしないじゃないの!」



振り向きもせずに 彼が答える



「そんな照れくさいことできるかよ 円華 返事がまだなんだけどなぁ」



まったくもう この人は こんな時まで飄々としてる

ところが ふっ と真顔になった



「嫁さんにするならこの人だって ずっと前から決めてた

でも 親父のことがあったから・・・

今まで 何にも言わずに付き合ってくれたこと ありがたいと思ってる」



要ったら 今になってそんなこと言うなんて ずるいわよ

究極のプロポーズじゃないの 

やだ 涙がでそう・・・



「仕方ないわね 私の胸だとよく眠れるんでしょう いいわよ 結婚してあげる

でもね ウチにも挨拶に来てよ 父の機嫌が悪いの お願いね」



要がいきなり立ち止まった



「お父さん 反対してるの?」



ふふん 悩みなさい たまには困った顔を見たいもんだわ

ところが意外な答えが返ってきた



「明日 ご挨拶に伺うよ 円華のお父さんにわかってもらえるまで話をするから」





次の日 要は本当に我が家にやってきた




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