結婚白書Ⅱ 【恋する理由】
父の想いは藍より深く


今日はあいにくの雨


要は 上品な色の背広にネクタイ

背が高い彼によく似合っていた

手には 大きな花束を抱えている 

花束と要の組み合わせが可笑しくて笑えたけど ぐっと笑いをこらえた 



「背広を着てきたんだ へぇ~ 案外しっかりしてるじゃないの」



彼も さすがに今日は緊張してるのか 私の冗談にも真面目な答えが返ってきた
 


「お父さん 認めてくれるかなこんな日に雨が降るなんて 前途多難だ」



そんな彼を まるで自分の息子のように母が出迎えた



「工藤さん お久しぶりね その節は円華がお世話になりました

このお花を私に? まぁ ありがとうございます

男性からお花をいただくなんて 嬉しいわぁ」



そう言うと 一歩下がって私達を見比べて・・・



「今日は素敵だこと 水も滴るいい男ぶり 円華と並ぶとお似合いよ

主人 ちょっと頑固だけど大丈夫 私が援護射撃するから頑張ってね」



要の背中を押すように 家の中に招き入れた





苦虫を潰したような父の顔 への字に曲がった口から



「ずいぶん若いな」



いきなりこう言われ 要は一瞬たじろいだが 

座り直すと 自分の伝えたいことを述べ始めた


黙って聞く父 何か言いたそうな母

成り行きを見守る私


だんまりを続ける父に業を煮やした母が ついに口を出した



「ねぇお父さん 工藤さん 若いのにしっかりした方でしょう?

円華も もういい歳だし これから子供を産むのも大変になってくるのよ」



母の最後のひと言に父が反応した



「なんだと? 円華 お前 子供ができたのか」



慌てて要が否定した



「それはありません 気をつけてますから!」



あぁ・・・要ったら それを言っちゃダメじゃない


案の定 父が怒りの表情を露わにしたが すかさず母が口をはさむ



「今時 男と女が付き合って 何にもない方が変ですよ!」



言いようのない緊張感の中

母の言葉が続く



「お父さん 何をすねてるんです 円華はいつまでたっても結婚できませんよ 

それでもいいんですか!」
 


決定打だった



約束通り 母の援護射撃のお陰で 父の かたくなな態度もようやく軟化し

要の言葉に頷きながら聞き入るようになった


早いうちに入籍したいという彼の申し出に 初めは戸惑った様子の父だったが

最後は 



「ふつつかな娘ですが 円華をよろしく頼みます」



と 要に頭を下げた




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