結婚白書Ⅱ 【恋する理由】


要と話しながら 自分が何に拘っていたのかわかってきた


仕事は続けたい 家事も完璧にこなしたい

要の両親にも良く思われたい

私って欲張りだわ


要が ”ゴロッ” と私の膝に寝ころんだ



「膝枕って気持ちいいね」



天井に目を向けながら ゆっくりとした口調で話し出した



「お互い 言わなきゃわからない事って多いよ 

今まで 円華がそんなこと考えてるなんて思わなかった

一人で抱え込まないで言ってよ 円華がイヤなことはしないし 

俺に出来ることはするから」


「うん・・・」



要の優しさが膝から伝わってくる





その日は そのままマンションに泊まった

いつにもまして 彼の手は優しく 私の肌に心地よさを与えてくれた



「夜 一緒にいるのは初めてだね」



要が 私の耳たぶを口に含んでからささやいた

そう言えば 彼の昼の顔しか見たことがなかった

”そうね” と言いかけた声が吐息に変わる

要の口は 耳たぶを甘噛みしてから 首筋をゆっくりと下りていった


夜の静寂は 私と彼に いつもと違う顔をさせる

暗闇は 私に 少しだけ奔放な姿をさらす手助けをした


濃密な時が過ぎ 帰らなくてもいい安心感が 私たちを深い眠りに誘う




朝日の中で見る彼の顔は 頼りになる男の顔に見えた





月曜の朝 二人ともマンションから出勤した

同じ場所に行くのに別々の車

私と要は 微妙に間隔をあけて会社の玄関に入っていく


結婚したら 毎朝こんなカンジかなぁ

くすぐったい思いに包まれて 気恥ずかしくなった



「まどか! 前 危ない!」



後ろから 要の大きな声



えっ? なに?

私は また誰かにぶつかって転んだ あのときと同じ

ただ ぶつかったのは要じゃなくて 加藤専務


そして


要の叫んだ声で 私と彼の関係は 会社中の知れるところとなった





< 38 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop