結婚白書Ⅱ 【恋する理由】
明日へ向かって


今日は 誰からも話しかけられないように 忙しいふり


はぁ 帰りたくなってきた 




玄関で転んだあと目に入ったのは

心配そうな要の顔と すべてを悟ったような加藤専務の顔



「広川君 大丈夫か?」



心配してくれているのに どこか笑いを含んだ専務の表情



「大丈夫です」



さっと立ち上がり 何事もなかったかのように歩き出す

ただ 後ろの会話がやけに気になる



”工藤さん 「まどか 危ない」って言ってたよね まどかだって”

”あの二人 付き合ってるの? 信じられないわね”

”広川さん どうやって工藤さんと仲良くなったのかしら”



ひと言ひと言が 全身に突き刺さる

やっぱり 会社辞めようかな・・・





『また玄関で転んだんだって? 

足は大丈夫?診察するから医務室に来るように!』



玲子先生からのメールだった



「やっぱり足を痛めたみたい 医務室に行ってくるね」


同僚に断ると 大げさに足を引きずって廊下に出た





「いらっしゃい」


玲子先生の顔は ”全部聞いたわよ”と言ってるみたいだった



「さぁ 足を診せて」


「えっ? 本当に診察するの?」


「そうよ 一度靱帯を痛めるとクセになるの 痛みはない?」



右足を診察しながら やっぱり聞いてきた



「会社の連中にバレたみたいね 説明する手間が省けて良かったじゃないの」


「人ごとだと思って よくそんなことが言えるわね」



だが 診察を終えた玲子先生の顔は真顔だった



「そんなんじゃないわよ 結婚するって決めたんでしょう? 

仕事も続けるんでしょう?

相手が工藤君だって いつまでも隠してられないのよ 

もっと堂々としてなさい!

今頃 何を悩んでるのよ 

工藤君のお母様も心配して ウチの母に相談にいらしたの 

円華さんが不安そうだってね」


「お義母さんが・・・そう・・・」


「まどちゃん もっと彼を頼ってもいいんじゃないの? 

工藤君なら立派に貴女を支えるわよ

あっ 逆か アナタなら彼を支えられる・・・だね」



あはは・・・もう 玲子先生ったら 

真面目に考えるのがバカみたい



「そうね 私 周りを気にしすぎてたのかも なんとかやってみる」




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