ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


 それから間もなくして、警察を名乗る人間のひとりが拳銃を撃った。
 思わず息を呑んで、身を小さくした直後、おれを探すため工場に侵入していた鳥井さんに見つかり、おれは大慌てで階段下から飛び出した。
 間抜けなことに、兄さまとおれを繋ぐ携帯を落としてしまった。ほんとうに大ばかだと思う。
 もちろん鳥井さんが拾わせてくれる猶予を与えてくれるわけもなく、全力疾走でおれに向かってきた。

 階段下から飛び出したおれは階段を上って、物が密集している二階へ逃げ込み、鳥井さんと鬼ごっこをしている真っ最中。勘弁してよ!

(鳥井さん。速いっ!)

 小さな体躯を活かして積み上がった廃材のすき間に入り込んだ直後、鳥井さんの姿が見えた。

 端的にいってものすっごく怒っていた。
 「こんのクソガキ」と悪態をつき、とんでもない事態になったじゃないか、と言っておれを捕まえようと手を伸ばしてくる。おれはその手を叩き落として、廃材のすき間の奥へ進む。
 どうにか廃材のすき間を通り抜けると、今度は壁に立てかけてあった汚らしい木材の束を引き倒して、少しでも鳥井さんの行く手を阻もうと努めた。本当はドラム缶の山があったから、あれを倒してやりたかったけど、非力なおれじゃ無理! さすがに気合でどうにかなるものじゃない!

 とはいえ、もう従順いい子ぶるつもりもない。
 兄さまがすぐそばまで来てくれていると分かっているのだから、おれにできることは少しでも鳥井さんから逃げて、時間稼ぎをすることだ。

 問題はおれの体力がどこまで持つか、だけど……。
 ああもう、足がもつれる。体が重い。寒気が止まらない。鼻水が垂れてくる。最悪だよホント!

 帰ったら熱いお風呂に入って、攫われた三日間のことを忘れてやる! これくらい強気にならないとやってられないよもう!


(パトカーのサイレンの音が聞こる。ひとの声も聞こえてきた!)


 木材の束を倒しまくっていたおれは、思わず工場の窓に目を向けてしまう。
 聞こえてくる。照明器具で辺りを照らせと。工場の周りを照らせと。被害者を一刻も早く保護しろと。ああ、今度こそ警察だ。益田警部達が来てくれたんだ!

 ほんとうに一瞬、鳥井さんから意識を外した。
 それが仇となった。鳥井さんは木材を踏み越えると、窓に目を向けるおれと一気に距離を詰めた。
 急いで逃げようと身を引いた直後、鳥井さんはおれの手錠のつなぎに目をつけて、それを握ると、思いきり自分の方に引き寄せる。体のバランスを崩したおれは、前のりになった。

 同時に鳥井さんはスタンガンの柄で、おれの頭部を思いきりぶん殴る。
 気配で鳥井さんの動きを察知したおれは、持ち前のボールペンを両手で逆手持ちにすると、体を捻ってスタンガン目掛けてそれを突き刺した。ガードした、という方が正しい表現かもしれない。
 スタンガンの柄はおれの頭部を殴ることなく、かといってボールペンはガードに留まったことで、鳥井さんの手から弾け飛ぶことはなかった。
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