ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


「兄ちゃん。坊主は見つかった。お前さんがやるべきことは、坊主の傍にいることであって、犯罪者の相手をすることじゃねえ。それは警察の仕事だ」

 下川治樹は能面のまま、言葉を重ねる。
 警察はただ犯罪者を捕まえるだけ捕まえて終わりにするじゃないか、と。

 被害に遭った弟、そして自分は多くの傷や怒り、恐怖、不安を与えられた。平穏を崩された。日常が壊されてしまった。犯人が捕まっても、やられるだけやられて終わり。

 一方の犯罪者は捕まえられて終わり。拘束されて終わり。無傷も無傷で終わり。
 ノウノウと法に(のっと)って、時間の掛かる裁判を受けるだけ。刑罰を受けるだけ。そこに苦しみも何もない。

 そんなの不公平ではないか。下川治樹は淡々と訴えた。

「弟は鳥井から消えねえ傷を体に残された。何度も暴行を加えられた。俺も大切な家族を二度も、この男に奪われかけた。その報いくれぇ受けても罰は当たらねえと思うんだがな」

「お前さんが坊主を思う気持ちは素晴らしいことだ。けどな、お前さんまで暴力に走ったら、この男と同類になっちまうんだぞ」

「やり返す、それの何が悪いんだ?」
「暴力が悪いっつってんだ」

「先に仕掛けてきたのは向こうなのに?」
「あの男と同類になるんじゃねえよ。これ以上、暴れられたら、俺でも庇い切れねえ。おめぇさんを拘束しなきゃなんなくなる」

「じゃあ黙ってやられろって言うのか? 冗談じゃねえ。俺はもうやられる側の人間じゃねえよ」

 下川治樹はちっとも理解ができない、と返事する。
 先に仕掛けてきたのは向こうなのだから、こっちはそれ相応にやり返す。
 それだけなのに、なぜ警察は自分の行動を止めに掛かるのか。まったく理解ができないと目を細めた。

「得をするのはいつもやった側だ。やるだけやって終わり。やられる側は最後まで損をする。ちっとも浮かばれねえ。なんでだ益田。どうしてやられた側が手を出したら止められるんだ? なんでやった側の方が守られるんだ? 先に喧嘩を振ってきたのはそっちなのに、やった側は無傷が多いんだ? おかしいだろが」

 言わんとしていることは分かるが、やはり下川治樹の起こす行動には問題がある。
 暴力を暴力で返したところで、やられた側に残るのは虚しさだろうに。

 確かにやられた側は損をする。

 傷を与えられ、恐怖を与えられ、不安を与えられ、何気ない日常を崩されたのだ。一度崩された日常を元通りにするのに多大な時間を要するのは必須。完全に元通りに戻らないことだってあるだろう。

 それでも、鳥井という男に暴力を振るってどうなるのだ。下川治樹は満足感を得られるのか。

 最悪、下川治樹自身に罪を科せられる可能性がある。
 そうすれば、また兄弟はバラバラになってしまう。下川兄弟にとってそれは望まない未来だろうに。
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