ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


◆誘拐事件の顛末(てんまつ)

誘拐事件の発端は、入院先の病院に持ち込まれた発煙筒のいたずらから。
トイレの個室やリネン室、空き病室などに大量の発煙筒が使用された形跡が見つかった。
白煙が立ち込めたことで、火事を誤認させるような騒動となった。
実際、火災報知器が鳴るよう、ひと目のつきにくいリネン室やトイレの個室からは固形燃料と可燃性のある衣類の一部が見つかったそうな。

それらは表向きいたずら目的。
真の目的は下川那智を誘拐するための仕込みだった、と警察は推測を立てている。

これについては俺も同意見で、
那智を攫った鳥井はもちろん、(フクロウ)と呼ばれた男も手を貸していたんじゃないかと思っている。
真相は分からないが、鳥井ひとりでこれを成し遂げられるとは思えねえ。
那智が入院している病院は広いしな。

鳥井が捕まったことで、この辺りは少しずつ明らかになっていくことだろう。

もちろん、なぜ那智を誘拐したのか。
どういう目的があって誘拐したのか。
それらもこれからの捜査で分かることはずだ。

また鳥井が通り魔事件の犯人であることも判明している。
その真偽は鳥井の怪我が回復してからになるだろうが、ひとまず通り魔事件は解決といったところか。
通り魔事件が解決ってことは、ストーカー事件も解決?
……あんましっくりきてねえけどな。
本当に解決したのか? この事件。

気掛かりはまだある。
那智は鳥井に誘拐された。
目的は金絡みのようだ、と那智は語っていた。
そして鳥井と同業者の人間も、那智を狙っていた、という。
鉄工場廃墟でドンパチした輩たちは、まさに鳥井と同業者の人間なんだろう。

ということは那智は金絡みで何かある?
そしてそれは俺にも直結している何かがあるのか?

個別で益田から声を掛けられた際、
「お前さん、何か握っているだろう」と聞かれた。

どうだろうな。
握っているかもしれねえし、握っていないかもしれねえ。
とりあえず那智のくれた情報を頼りにしようと思う。

ああ、それから。
俺が鳥井や他の人間をフルボッコにしたことについては表沙汰になっていない。
益田を筆頭に警察からきついお灸を据えられたが、特に思うことはねえ。

先に喧嘩を吹っ掛けてきたのは向こうなんだ。
それ相応の報いを受けて当然だと俺は思っている。
拳銃の使用についても、向こうが先に使ってきたから、奪い取って仕返しをしただけ。

目には目を。
歯には歯を。
暴力には暴力をってな。

益田にそう(わら)ってやると、深いため息をついていた。
どんな言葉を投げかけてきても、この態度を一貫すると苦言をちょうだいする。

「結局、兄ちゃんを説得できるのは坊主だけか」

だってよ。

当たり前だろう。
俺が他人の言葉を聞くとでも思ってんのか?
那智の言葉だけが、俺に意味をくれるんだ。
他人の言葉なんざ無価値も同然。

ああ、那智が独占欲を見せた姿は本当に心がふるえたな。

「おれだけの兄さま」だなんて初めて言われた!
嬉しいってもんじゃねえ。大興奮だ大興奮。

もっと言ってほしい。
もっと俺を独占してほしい。
もっと俺を必要としてほしい。

俺は那智を支配することが大好きだが、たまには独占されたいって気持ちもある。
支配して、独占して、独占されて、ふたりだけで過ごしたい。
事件に巻き込まれてばっかのせいで、他人と関わることが多くなった。まじ疲れるんだけど。

やだやだ。
那智とふたりだけでゆっくり過ごしたい。

◆この日食べた飯
何食ったっけ?
エナジードリンクは口に入れた気がする。
あとメロンパンを四分の一。

理由は今日も一日中眠っていた那智が、夕方に起きて俺におねだりしたからだ
「兄さまといっしょにメロンパン食べたい」って。
だからメロンパンを半分この半分こ。四分の一にして食べた。那智の奴、半分も食べられそうになかったからな。
元気になったら、兄さまとメロンパンを半分こにして食べような。
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