ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


 あれこれ考えた結果、俺は那智を物理的に部屋に繋げておこうと思い立った。

 思い返せば誘拐事件が起きたのは、俺に油断があったせいだ。
 病院はひと目が多い。警察もいる。俺がいなくても大丈夫だろう。心の中でそう思っている節があった。

 そうやって他人に隙を見せた結果、誘拐事件を引き起こしてしまった。

 毎日のように自分の判断を悔やんだ俺は、手前の手で那智を部屋に繋げておくべきだと結論を出した。
 自分で策を講じた結果、誘拐事件が再び起きたなら自分の策が甘かったと反省ができる。
 逆に何もせず、他人に隙を見せて事件が再発してしまったら最後、俺は俺自身を殺したくなる。

 一方で、今度こそ那智を誰かに奪われるやもしれない。弟のいない世界、そんな地獄、耐えられるわけがないのに。

 だから俺は那智を部屋に繋げる決意をした。
 たとえ那智が怯えようとも、泣きじゃくろうとも、抵抗されようとも、部屋に繋げてしまおうと思った。

 とはいえ、那智は俺にとってたった一人の家族であり、かわいい弟。

 できるだけ、傷付けるようなことはしたくない。
 だから睡眠薬を盛って抵抗を奪った。そのうえで怯えさせないように、言い聞かせるように、説得するように対話しながらチェーンで繋いでしまおうと計画した。

(那智がベッド下の段ボールを引っ張り出した時は、焦ったが……良い意味で計画は破綻したな)

 那智は俺の予想の斜め上をいく言動を起こした。

 まるで何もかもを見透かしたように、「いいよ」と言ってきた。
 もっとわがままを言っていいんだよと笑った。
 むしろ、わがままになってほしいと願った。
 これから何をされるのか、ひとことも言っていないのに、当たり前のように那智は俺を受け入れてくれた。

 表向き退院祝いの『GPS入りチョーカー』を渡すと、那智は純粋に喜んでそれを身につけた。
 GPSが仕込まれているなんて露一つ知らない那智だが、きっと何かしらの意図はあるだろうと察しているはず。それでも那智は喜んでくれた。俺とお揃いであることに満面の笑みを浮かべていた。

 護身用の折り畳み式のナイフには少しだけ困ったように笑っていたが、ちゃんと受け取ってくれた。

 睡眠薬を盛っていたとはいえ、チェーンを巻かれても、那智は静かに見守るだけ。南京錠を下ろしても抵抗する素振りを見せなかった。怯える様子もなかった。

 それどころか、いっしょに寝ようとねだってきた。
 寝る寸前まで甘えてきた。病院で甘えられなかった分まで目いっぱいに――俺は那智を舐めていたようだ。周囲の人間と比較して「一般的」な反応を予想してしまった。


(俺は表立って異常だと言われることが多い)


 俺の影響で傍にいる那智も「異常」と見られがちなことが多い。
 だから周りは自然と思う。兄貴と離れた弟は「まとも」だろうと。
 ひねくれた兄貴より素直で、純粋で、子どもらしい一面を持っている那智は兄貴の影響で「異常」に見えるだけ。兄貴の傍を離れれば、「まとも」な子どもだろうと。

 俺も心のどこかで思っていた。那智は俺より「まとも」だろうって。

 それは違った。お前も周囲の人間と明らかに違う。兄貴を想い過ぎるところが、とくに。

「お前の精神状態を俺を含めたオトナは心配していた。ストーカー、親父の件、通り魔、誘拐。時間を空けずに事件に巻き込まれてばかり。さすがにお前の精神は疲弊しているだろうと思っていた。なのに、お前ときたらどうだ」

 トラウマにしているのは車に乗ることだけで、あとはケロッとした顔で過ごしてやがる。
 さすがに鳥井から性的暴行を受けたことに対して思うことはあるようだが、あれもトラウマというより「気持ち悪い」で済ませている。
 俺に触れられた後は思うことがなくなったのか、兄さまに触られるのは大丈夫の一点張り。鳥井のことなんて忘れているみてぇだった。

 一に兄貴、二に自分、あとはどうでもいいと思っているのかもしれねえ。

 とにもかくにも、那智は俺の行動を一切合切受け入れるつもりなんだろう。抵抗も非難の声もなかったのがなによりの証拠だ。
 那智なりの愛情表現なのかもしれない。

「ほんと、びっくりするくれぇ肝が太いな。お前は……正真正銘、血の繋がった俺の弟だよ」 

 ひとつ苦笑いをこぼすと、俺は握ってくる那智の右手を取り、加減なしに歯形を付ける。
 少しだけ眉を顰める那智の顔を見ながら、三度(みたび)歯形を付けて、最後に剥き出しになっている首に歯形を付けて、満足するまでそこを舐め続けた。

 弟に劣情を抱くことは少ないが、飢えた愛情と欲情は抱く。

 ああ、那智が欲しい。もっと欲しい。
 全部喰らえば、俺の飢えている愛情が満たされる気がして。
 なにより求められたい。兄貴がいねぇとダメなのだと泣きじゃくってほしい。触れ合った時のように。他人を極端に怖がり、俺を求めた時の姿を見せてほしい。
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