水面に浮かぶ月
「あら、随分と期待されているのね、私」

「そりゃあ、そうですよ。この街で、あなたほどの早さでステップアップしてきた人はいません。そんな人がオープンする店なら、給料なんて二の次で、僕も夢を見たくなるじゃないですか」


買いかぶり過ぎだと思った。

でも、反面で、素直に嬉しくも思った。


透子は店内にひときわ大きく飾っている、白いバラの花弁に触れる。


夢は、見るものではなく叶えるものだ。

そうやってきたからこそ、透子は今、この場にいるのだから。



「ねぇ、久世くん。私はこの街で一番になれると思う?」

「なれますよ。そのために僕がいるんです」


頼もしくも心強い台詞だった。



「『JEWEL』で、担当として、私をナンバーワンにしてくれた人の言葉はダテじゃないわね」


振り向く透子。

久世はまた笑みを返す。



「あなたのためであり、自分のためですよ。僕も『一番』になりたいですからね」


久世もまた、内に秘めた野心を持つ人間だ。

だから透子は、それに惹かれるのだ。


久世とならやれると、絶対的な自信を持てる。



「期待してるわ、久世くん。私はあなただけが頼りなんだから」


耳障りのいい言葉を吐く透子。

久世は強くうなづいた。



「任せてください」


ありがとう、久世くん。

私と光希の未来のために、しっかり働いてちょうだいね。


透子は言葉を喉元で止め、久世にほほ笑んで見せた。

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