水面に浮かぶ月


「ん……」


薄目を開けると、ぼんやりとした白が――人工的な天井が、広がっていた。


私はあの洞窟から出られたんだ。

光へは向かわず、ちゃんと光希の声に従ったから。



曖昧な中に、ひどい安堵が起こった。



「……透子」


ゆっくりと、顔を向ける。



光希だった。

今度は本物の光希だった。


光希はガリガリに痩せ細っていて、泣き笑い顔で、透子の手を握っていた。



「泣いてるの? イケメンが台無しじゃない」


光希は透子の手を両手で包むと、それを自分のひたいに当て、



「もう二度と目を覚まさないかと思った。透子が生きててよかった。本当に、本当に、よかった」


光希は肩と声を震わせる。


何があったって、決して泣かなかった光希が。

光希の涙を見たのは、この14年間で、初めてのことだった。



「金も、地位も名誉も、何もいらない。そんなちっぽけなものなんかより、透子さえいればいいんだって、俺は、こんなことになってやっと気付いたんだ」

「光希……」

「今までずっとごめんね、透子。苦しめてごめん。俺の所為で辛い思いばかりさせて、本当にごめん」

「まだ終わってない。私、頑張るから。光希のためなら何でもするよ」


だけど、光希は静かにかぶりを振った。



「もういいんだよ、透子。おしまいにしよう」
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