水面に浮かぶ月

その時まで



天気予報では梅雨入りしたとか言っていたが、ちっとも雨なんて降らない。

それどころか、もう夏なんじゃないかと思うほど暑く、雲ひとつない快晴の日が続いている。


じんわりと、ひたいを汗で湿らせながら、シンは『cavalier』の窓を開けた。


風が吹き抜ける。

埃っぽい臭いを連れ去ってくれる、風が。



「あっつーい」


でも、やっぱり暑いのまでは、変わらないらしい。


シンは、ここに来る前に買ってきておいた、白いバラの花束を、花瓶に生けた。

生けたと言っても、花の生け方など知らないシンは、セロファンを取って、それをそのまま花瓶に突っ込んだだけなのだが。



「うーん。不格好」


そこでふと、光希のことを思った。


何であの人、あんなに花を生けるのが上手かったんだろう。

花に携わることをやっている人や、花が好きな女性ならわかるが、どうしてあの人はあんなに……。



「でも、まぁ、いいか」


どうせ、誰も見ないし。

強いて言うなら、優也への弔いというだけのために買ったものだし。


仏花というのも何だか寂しくて、でも花のことなんてまるでわからないシンは、だから光希がいつもしていたように、白いバラを選んだのだ。



埃っぽい臭いに支配されていた店内は、いつの間にやら強いバラの香りに包まれていた。



あれから3ヶ月。


まだ3ヶ月、というべきか、それとも、もう3ヶ月、というべきか。

生きている人間は、今も時を刻み続けている。

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