水面に浮かぶ月
リョウは、睨むような目で光希を見る。

光希はそんなリョウから目を逸らすことなく、「あぁ」と返した。


沈黙の中での攻防の後、



「んだよ、それ」


リョウは毒づいて、あからさまに不機嫌な顔になる。



「絶対に何かあると踏んでたのに、つまんねぇなぁ、おい。無駄に動いて損したぜ」


紙切れを、光希に投げ付けるリョウ。

光希はそれを拾い上げ、



「当てが外れて残念だったね、リョウ」


悠々と煙草の煙を吹かした。


リョウとの駆け引きなど、光希にとっては取るに足らぬこと。

紙切れに描かれている文字を読み流し、光希はいい情報を得たなとほくそ笑んだ。



リョウも煙草を咥える。



「ほんとに嫌な野郎だよ、お前は。昔は、そこいらにいるただのホストだと思ってたけど、俺はとんでもなく見当違いをしてたらしい」


肩をすくめたリョウは、



「俺はお前のことが、時々マジで怖くなるよ。ほんとは一体、どんな牙を隠してるのかってな」

「何を言ってんだか」


光希ははぐらかして見せた。

だが、リョウは、それには動じず、



「その牙を俺に向けんじゃねぇぞ。裏切ったら、お前の何もかもをぶっ壊してやっからな」


裏切るも何も、俺は今まで一度として、お前との仲間意識を持ったことはない。

光希は内心でそう吐き捨てながらも、「怖い、怖い」と、またはぐらかしておいた。


透子以外の誰も、光希が信じることはないのだから。

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