水面に浮かぶ月
「ほんとのこと言うと、俺は昔から、お前のことが大嫌いだった。なのに、お前は」

「そんなことはもういいじゃない」


遮るように言う光希。

今ならまだ、最終に間に合うはずだ。



「早く行きなよ、リョウ。誰かに見られる前に」


リョウは涙を拭い、決意したような瞳で、「あぁ」と強くうなづいた。



「世話になったよ。この恩は忘れねぇから。ありがとな」


言って、リョウは助手席を出て、人目を気にしながらも、改札へと急いだ。

車内でその背が見えなくなるまで見送った光希は、



「ふ、ははははは」


いよいよ大笑いした。



本当に、馬鹿なクズ野郎だよ、あいつは。

俺がやったことだと気付きもせず、最後は岡嶋組の所為だと思って俺に感謝なんかして。


ピエロ以上にピエロらしく、リョウは光希の手の平の上で踊ってくれたのだから。




光希は携帯を取り出し、透子に電話を掛けた。



「今、リョウを駅まで送ったよ。あいつ、泣きながら俺に『世話になったな』って言ってた。思い出すだけでもまた笑ってしまうよ」

「そう。じゃあ、もう、これで私の役目は終わりね」


透子の言葉は、相変わらず、淡白なものだった。

光希は怪訝に眉根を寄せる。



「どうしたの? 透子。嬉しくない?」

「そんなことはないわ。ただ、疲れているの。今度またゆっくり話をしましょう? 今日はもう切るわね」


言うや否や、透子は一方的に電話を切ってしまった。
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