水面に浮かぶ月
きっと、透子は、リョウのことを思って、今頃、心を揺らしているのだろうけれど。

でも、勝ちは光希のものであり、透子はその共犯なのだ。


だから、リョウがいなくなった今となっては、そんなことはただの、一時的な杞憂に過ぎない。


優しい透子は同情と愛情を混同しているだけで、時が経てば、また今までのように戻るはずだ。

だって、透子には俺しかいないのだから。



やっとそうやって、少し、気持ちに余裕が出てきた光希は、今はそれを考えないようにし、再び携帯を操作して、内藤に電話を掛けた。



「内藤さん。例の、リョウの件、すべて上手く行きました」

「ほう。ってことは、やつの持ってる情報は?」

「もちろん、こちらの手の内に。その上で、リョウをこの街から飛ばせました。詳しいことは、お会いした時にでも直接」

「わかった。じゃあ、1時間後に『cavalier』に行く。人払いをしておけ」


電話を切り、光希は店に戻るために車を走らせた。



『cavalier』を早々にcloseにさせた光希は、カウンターでひとり、自らが作ったギムレットを傾ける。

こんなにも酒が美味いと感じたのは、ハタチの誕生日以来だろう。


邪魔なリョウが消え、また一歩、光希は夢へと近付いたのだから。



約束の時間を少し過ぎた頃、内藤はやってきた。



「よう。待たせたな」


席を立つ光希の代わりに、内藤がそこに座った。



「連絡、待ちくたびれたぜ、光希ちゃんよぉ」

「すいません。今回は少し、慎重に動いていたもので。それより、バーボンでいいですか?」


だが、せっかちな内藤は、「酒より先にネタを見せろ」と、前のめりに言った。

リョウの持っていた情報は、内藤にしてみれば、喉から手が出るほどのものらしい。


光希はクッと笑い、ジャケットの胸ポケットからSDカードとUSBメモリ、そしてクスリのパケを取り出し、内藤の前に置いた。
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