水面に浮かぶ月


行為を終えてもなお、ふたりは抱き合い、他愛もないことを話した。



「もうすぐ誕生日だね。今年はどうしようか」

「その前に旅行に連れて行ってくれるんでしょう?」

「そうだね。どこに行きたい? 透子の行きたいところに行こうよ」


くすくすと笑い合い、合間にキスを繰り返す。


リョウへの気持ちは消えたわけではない。

けど、でも、それ以上に、光希と過ごす幸せをひしひしと感じる。



「いっぱい相談しなくちゃいけないことがあるね。旅行のこととか、誕生日のこととか、これから先のこととかさ」

「え?」


体を起こした光希は、ベッドから抜け出て、テーブルの方に行ってしまった。

よくわからず、透子もそれを追うようにベッドから出た。


光希は置いていた紙袋を透子の前に差し出した。



「500万ある。今回の件の報酬だと思ってくれればいい。何も言わずに受け取って」


透子は光希を見て、紙袋を見て、もう一度光希を見た。

光希の目は真剣なものだった。



「なぁ、透子。今、貯金はいくらある? この500万を足したら、透子の念願が叶うと思うんだけど」

「……え?」

「『JEWEL』でナンバーワンになり、『club S』でもナンバーワンになった今こそ、透子は自分の店をオープンさせるべきだ」

「私のお店……」


この街に来た時から、それは夢であり、目標でもあった。

透子の鼓動はどくんと大きく音を立てた。



「透子の夢は俺の夢だ。俺たちの、夢を叶えるんだよ、この金で」


リョウをおとしいれて得た金。

そうわかっていても、透子は紙袋へと手を伸ばした。


どうしても、その金が欲しかったから。
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