水面に浮かぶ月
透子は紙袋を両手で握る。



「本当にいいの?」

「当たり前じゃない。ふたりで掴み取った金は、ふたりのために使わなきゃ」


『ふたり』――ひとりじゃないということ。

親に捨てられた透子は、だから余計、その言葉に依存する。


今度こそ本当に、リョウへの罪悪感を奥底へと追いやり、透子は光希に笑顔を向けた。



「ありがとう、光希。叶えましょう、私たちの夢を」


この500万さえあれば、当初の目標額に到達し、自分の店を持つことができる。

そうしたら、光希は喜んでくれるから。


光希は透子を抱き締めた。



「ごめんね。本当は少し、いや、すごく不安だった。透子はもう俺を必要としないんじゃないか、って。透子はリョウのことを好きになってしまったんじゃないか、って」

「……光希?」

「透子の心までリョウに奪われてしまったらって思ったら、毎日、毎日、怖くてたまらなかった。透子がいなくなったら俺は生きていけないよ」


透子は光希の背中をさする。


出会ってから、もうすぐ14年になる。

光希の弱音は初めてだった。



「心配しないで、光希。私も光希なしでは生きられないわ。だって私たちは、ふたりでひとりなんだから」


唇が触れる。

光希は泣きそうな幼子のような顔をしていた。



「だから、早く夢を叶えて、ふたりで幸せになりましょう?」

「そうだね」


何度も何度も、くじけそうになる度、ふたりはそれを言葉にして確かめ合うのだ。


押し潰されてしまわないように。

ふたりで、この街を手に入れるために。

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