水面に浮かぶ月


その日から、透子は、自分の店を出店するための準備を本格的に始め出した。




場所はどこがいいか。

広さは、家賃は、店内の装飾は、スタッフの数は。


キャストはどんな子がいいか。


頭の中では昔から理想とするイメージはあった。

だが、実際にそれを叶えるとなると、何を、どうするべきなのかと、何度も考えては悩んだ。



けれど、それは不思議と苦にはならなかった。



それどころか、透子はやる気に満ち満ちていた。

どんな時も、光希が片側にいてくれているとわかっているからこそ、強くいられたのだ。


やっと夢が叶うと思えば、手を抜けるはずもない。




そして、3週間後。





透子は休みを取り、光希とふたりで2泊3日の旅行をした。



行楽地の温泉街。

近くには湖があり、美術館や、動物園なんかもあるところだった。


繁忙期ではなく、おまけに平日だったため、静かにふたりだけの時間を楽しんだ。


光希と外で堂々と手を繋ぎ、普通のカップルのように、笑い合った。

たくさんの写真も撮った。



ひと時の安らぎ。



だが、夢が叶えばこんな日々も当たり前になる日が来るのだ。

そのために――そのためだけに、生きてきたのだから。


だから、たとえ、何をしようとも、誰を騙そうとも、透子は光希とふたりで幸せになりたかった。

< 98 / 186 >

この作品をシェア

pagetop