恋物語



「あーっくそっ」


俺は再び琢磨の襟首を掴み、部室から退室した。
部室の影に隠れ、琢磨を解放する。


「いい加減元の世界に戻ってこいっ」


もう一発殴る。
こうでもしないと戻ってこないだろう。

案の定、琢磨は顔を上げ、情けない顔を俺にさらした。
うわ、泣く一歩手手前じゃねぇか、これ。


「……どうしよぅ……嫌われた……雅樹ぃ…」

いや名前を呼ばれても。

「だが、事実だな」

「……ぅ」

「なよなよしてるだろ、実際」


こいつは男にしてはかなりおとなしめな性格で、優柔不断で……完璧草食系男子の模範生だ。

望月の表現はあながち間違いではない。



「…ぅぅ……雅樹はいいよね……」

「あ?」

「頭だって、名前、聞いてたでしょ。どさくさに紛れて…小野崎さんに」

聞いてたのか。

「頭撫でてたし……」

見てたのか。

「最後名前、呼んで……会話してたし……」



…………。

こいつ、会話すらできなかったからな。望月と。


 
< 40 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop