雪の果ての花便り


私に関連するって……出会った季節が冬だから? あとは名前、だよね。知ってたんだ。郵便物かなにかで見たのかな。

なににしたって、彪くんは私の心拍数を上げる天才だ。


無理やり空にしたマグカップを持って立ち上がると、

「俺がいれるよ」

視線で気づいた彪くんが自分のカップの縁を掴んだ。そのまま私からマグカップを取り、キッチンへ向かう。


私はなんとなく、数分置いてからあとを追った。実際は1分も経っていなかったのだが、お湯を沸かしにかかっていた彪くんは目を細めてくれた。


「明日の朝はなにが食べたい?」


それは今夜、泊まってくれるってこと?

ほころびそうになった顔を下げ、「スープがいいです」と答えた。また?と言うように彪くんは隣で笑った。


「俺もスープボウル買おうかな」

「持ってないんですか?」

「家にはあるけど、もうひとつ深桜(みお)さんち用に」

「……、」

「やっぱりまだ名前で呼ぶのは恥ずかしいかも。明日一緒に買いに行かない?」

「……かまいませんけど、私の家にあるものを使えばいいじゃないですか」

「デートに誘う口実だよ」


顔を覗きこまれても、理解するのに数秒かかった。


「ふつうに誘ってくださいよ……」


ああ、もう。顔が熱い。


「ごめん。じゃあスープボウルは今度にして……、近場デートしよう。明日はまず、あれに合うスープの材料を買いに行くってどう?」


彪くんは私の背後を顎で指す。振り返った先にあるのは食器棚だ。


「スープボウルもあるのに、まだ一度も使ってないでしょ。俺があげたテーブルウェア」


私は心底驚いて彪くんへ向き直る。


リビングから、最後とは思えない激しい雪風が窓に吹きつける音がする。

満開の桜はまだ見られそうにないけれど、眼鏡を外した彪くんは微笑み、出会ったときのように少し照れくさそうに私を見つめたから、春の訪れは感じられた。


柚に報告することは、まだまだ増えそうだ。




【完】
< 50 / 50 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:54

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

夢見るきみへ、愛を込めて。
沙絢/著

総文字数/100,462

恋愛(純愛)135ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「とびきりの秘密を教えてあげる」 ・゚+.。。.+゚*゚+.。。.+゚*゚+.。。.+゚・ 終わらない冬を望む私に 春を告げてくれたのは 自称ストーカーのきみと 交わした覚えのない 約束だった ・。+・゚゚・+。*。+・゚゚・+。*。+・゚゚・+。・ 2017/06/15~ 融けない雪に囚われて 夢見るきみは春を告げる
柊くんは私のことが好きらしい
  • コミックあり
[原題]モブカノ! -主役級男子に告白されました-
沙絢/著

総文字数/116,654

恋愛(学園)200ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
クラスメイトその13くらいの私が 主役級男子に告白されました =========================== 『俺の彼女になってくれませんか』 この告白   受ける? 断る? =========================== 20170408 END 20171225 文庫化 (原題:モブカノ!-主役級男子に告白されました-) ※文庫版とは一部内容が異なります※ ・ +.゚ 。☆ ・ 脇役系女子と主役級男子 ちょっぴり世界がちがうふたりの 手探り状態 おつきあい
オリガク! -折舘東学園の日常的(恋)騒動-
沙絢/著

総文字数/121,143

恋愛(学園)197ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
-以下の者に処分を申し渡す- 「私は喧嘩を止めただけじゃん!」 2年B組 高遠 楓鹿 「俺のイメージ、変わりました?」 1年E組 蕪早 虎鉄 「全ては俺の手の平の上ぇええい!」 1年E組 場工谷 康祐 ・.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.・ 折舘東学園高等学校 通称オリガクで巻き起こる すったもんだの大騒ぎ系学園ラブ ・.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.・ 2015/10/1~2016/3/23

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop