ビロードの口づけ 獣の森編


 獣は目を細めて、おとなしく夜具の上で身体を伏せた。
 クルミは横になったまま、その頭をゆっくりと撫でる。


「ザキに王妃様と呼ばれました。そして軽率な行動を取るなと注意を受けました。私はあなたの妻になるという事を、本当の意味で分かっていなかったようです。今日は心配かけてごめんなさい」


 ミユに聞いたが、これまで獣王に特定の妻はいなかったらしい。
 結月の仕組みを考えれば、それも頷ける。
 つまり王妃という立場の女性もいなかったという事だ。

 クルミが獣社会で初めての王妃となる。
 そしてジンは新しい獣社会の初代王を目指している。


「王妃として、あなたを支えたいと思いました。あなたが目指している新しい獣社会実現のために、手助けしたいと考えています」


 獣は顔を上げて目を開いた。
 緑がかった金の瞳が、真っ直ぐにクルミを見据える。

 次の言葉を促しているようだ。
 クルミも見つめ返し、言葉を続けた。

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