ビロードの口づけ 獣の森編


「きゃっ!」


 鼻の頭をペロリと舐められて、クルミは悲鳴と共に飛び起きた。

 辺りはまだ闇の中だ。
 それほど時間は経っていないのだろう。
 目の前では黒い獣がグルグルとのどを鳴らしている。

 あれほど意地悪をしておいて、全く悪びれた様子もなくご機嫌のようだ。

 クルミはわざとムッとした表情で獣を睨んだ。
 すり寄ってきた獣の首を撫でながら恨み言を言う。


「ズルイです。その姿で甘えられたら文句も言えないじゃないですか」


 クルミが獣姿のジンに甘い事を彼には知られているのだろう。
 文句を言ったとしても獣姿では言葉が話せないのでクルミの一方通行だ。
 たとえ人姿のジンに文句を言ったところでいつも敗北するのだが——。

 文句を言うのは諦めて、クルミは昼間考えた事を一方的に話す事にした。


「少し話を聞いて下さい」

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