ビロードの口づけ 獣の森編
人形と黒い獣



 頭の上に箱が落ちてきて、黒い獣は飛び退いた。

 直撃はまぬがれたものの、身体の周りには箱から転がり出たたくさんのぬいぐるみや人形が散らばっている。下半身はすっかりその中に埋まってしまった。

 クルミが退屈しているだろうと侯爵家から運び込まれた荷物だ。元々寝室に置かれていたものだというので、寝室に運び入れてもらっていた。

 寝室にこんなにたくさんのぬいぐるみがあったかどうか、黒い獣は覚えていない。片付けるにしても、これをいったいどうするべきか途方に暮れる。

 ふと目の前に転がっている人形が、黒い獣の目に留まった。

 亜麻色の髪に緑の瞳で、淡いピンクのドレスを着ている。どことなくクルミに似ているようだ。

 鼻先を近づけると、微かに彼女の甘い香りがした。

 黒い獣は人形を前足の間に抱えて、額をすり寄せる。まるでクルミを抱きしめているような気がして、次第にグルグルとのどが鳴り始めた。

 人形に残るクルミの香りに酔いながら、時々人形の頬を舐める。しばらくそうしていると、突然頭の上から声が降ってきた。

「その人形が気に入ったのですか?」

 ビクリと身体をふるわせて、黒い獣は声のした方へ顔を向ける。視線の先ではクルミが微笑みながら見つめていた。

 人形を相手に戯れていたのを見られて、なんとなく気恥ずかしくなった黒い獣は、耳を後ろに倒してグルルとうなってみせる。それを見て、クルミは益々笑みを深くした。

 その余裕ある態度がおもしろくない。

 黒い獣はガウッと一声あげて、クルミに飛びかかった。獣の身体を抱き止めて、床にひざを着いたクルミは、クスクスと声を上げて笑い始める。

 人形に染み着いた残り香とは比べものにならない彼女の濃厚な甘い香りが、苛立つ獣の心を芯からしびれさせた。

 この香りも感触と温もりも、やはり本物のクルミの方が格別だ。

 クルミの甘い香りに酔いしれて、黒い獣はいつしかのどを鳴らし始めていた。細い指先に撫でられながら、獣はクルミのひざに頭を乗せて目を閉じた。



(完)


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診断メーカーのお題により書きました。↓↓↓
16時間以内に5RTされたらたくさんのぬいぐるみの中に埋もれている 黒い獣をかきましょう。

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