ビロードの口づけ 獣の森編
午後になり、慌ただしく昼食を終えたジンの執務室に、街からはライが、森の巡視からはザキが定例報告にやって来た。
執務机に向かって座ったジンの前に、二人は立っている。
まずはライが口を開いた。
街はいたって平和だという。
約束の日が過ぎて、一目で獣だと分かる者たちの姿はめっきり見かけなくなったらしい。
そのせいか領主ものんびりと通常業務をこなしていると、先ほどクルミの元に荷物を届けに来たコウが言っていた。
この時期、森から街に出る獣は女の方が多い。
街で働いている男たちの品定めに出かけるのだ。
ライがおもしろそうにその様子を報告する。
「今年はパン屋のジムが大盛況だよ。やっぱり自分の店を構えているってのがポイント高いんだろうね」
ジムは数年前からパン屋で働いていた。
そして今年、独立して店を構えたのだ。
人の間でもジムのパンは評判がよく、店もそこそこはやっている。
その噂が森の女たちにも伝わっているのだろう。