ビロードの口づけ 獣の森編


 途方に暮れたような表情で所在なげに佇んでいたミユは、ジンと目が合うとピクリと肩を震わせた。
 叱られると思ったのかもしれない。

 ジンにそんなつもりは毛頭ない。
 クルミが侍女を謀って突然行方をくらませるのは初めてではないからだ。
 おそらくミユに落ち度はない。


「ミユ、クルミがいなくなった経緯を手短に説明してくれ」
「はい」


 少し緊張した面持ちで、ミユは先ほどの経緯を話し始めた。

 ミユとクルミは午前中からコウが運んできた荷物を一緒に片付けていた。
 人社会の本や小物がミユにとってはどれも珍しく、度々クルミに説明を求めていたので、片付けは遅々として進まなかった。

 昼食を挟んで二人は片付けを再開した。
 少ししてミユはクルミを部屋に残して手洗いに立った。
 そして戻った時にはクルミの姿は消えていた。
 時間にしてほんの数分の出来事だという。

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