ビロードの口づけ 獣の森編
ご機嫌な獣とこのままゴロゴロしていたい気もするが、初日からそんなわけにもいかないだろう。
クルミが側にあった寝間着に手を伸ばした時、獣が素早くそれをくわえて手元から奪い去った。
寝間着をくわえた獣はヒラリとベッドから飛び降り、クルミを振り返る。
クルミは身体を起こして、シーツで胸を押さえながら訴えた。
「返して下さい」
いったい何の嫌がらせだろう。
就寝時にそのまま連れて来られたクルミは、今獣がくわえている寝間着しか着るものがない。
家に使いを出すなり、何か他に着るものを用意してもらうにしても、それまで裸でいるわけにもいかないのだ。
ムッとしているクルミを嘲笑うかのように、獣は耳をピクピクと震わせた。
細長いしっぽをゆらゆらと揺らしながら、寝間着をくわえたまま更にベッドから遠ざかる。
ジンが得意な意地悪だ。
クルミが困るのを見て楽しんでいる。
そう思ったクルミは、裸のままベッドを飛び降りて獣の後を追った。