モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
店内ではーーー

美雨も杜も、黙って作業を続けていた
美雨はそこかしこと拭き掃除に専念し
杜は空になった段ボールを潰しては
まとめたりしていた

「っ、痛ってぇ」

「ど、どうかしましたか?」

杜の声に思わず反応する美雨

「ああ、ちょっと段ボール縛った紐を
カッターで切ったら指も少し切れたんだ」

「ええ?見せてください」

「いいって、大したことねぇって」

「そういう訳にはいきません」

そういうと、美雨は杜の手を取った

「ああ、ここ少しですね
良かったぁ、
絵を描くにも問題なさそうですね」

そういいながら、美雨は自分の鞄から
絆創膏を取り出した

「オーバーだな…」

そう、ぶっきらぼうに言う
杜の指に絆創膏を巻き付ける美雨

巻き付けた後、杜から離れようとすると
その手を取られた

「な、な、なんですか?」

「やっと、捕まえた
ずっと、話がしたかった
おっさんと美登の好意を無駄にしたくない」

「お、おっさんって…」

美雨は杜に手を取られたまま
俯きながら少し微笑んだ

「なあ?俺のこと信じらんない?」

「えっ…」

「あの時の事は謝る
本当にたまたまなんだ…ちゃんと話すから
聞いてくれるか?」

美雨が顔をあげると
そこには杜の真剣な顔があった

真っ直ぐに見つめる視線を
美雨は拒むことが出来なかった

そして、コクンと一つ頷いた





店の奥にある
ソファに並んで座ると
杜はポツリポツリと
自分の事を話始めた

自分が妾の子であること
実の母の事
継母との確執
美登との出会い
そしてーーー
ーーーかの子のこと

美雨は黙って聞いていた
ただ、手はずっと杜に取られたままだった

一通りの話を終えると杜は
美雨の目を真っ直ぐに見つめ

「勝手な話だけど、俺を救ってくれるのは
アンタしかいないと思ってる
俺たちの出会いは偶然だと思っていない
必然の上でアンタは
俺の元へとやって来たと信じてる
現に俺は漸く暗闇から抜け出そうと
歩き出した
僅かな光を見つけたんだ
生きてゆく希望だよ
その光の先にいるのは…
美雨、アンタだ
俺はアンタを手に入れたい
そして、離したくないんだ、この先も
あの日からずっと考えていた…
そして、ハッキリとわかった
美雨、好きだ…
俺はアンタを心から愛してるーー」





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