モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
***


美雨はアトリエに来ていた
外はいつかの様な
どしゃ降りの雨だった

そう、
杜と初めて会った時に
降っていた
あのどしゃ降りの雨

全てはあの日から
あの雨の日から
始まったのだ

あの日、
杜に会い
そして
抱かれ
杜の寝顔を見てしまってから

美雨の人生は
大きく動き出したのだ

これまでとは違う
何かを杜に感じとり

自分自身でもわからない力で

まるでーーー
ーーーーそれは磁石のように

強く惹かれたのだった

「モルフェウスかぁ……」

美雨はアトリエに残されていた
一冊の画集を手に取って見ていた

いつか聞いた神話の話
あの時、杜の話を聞いても
今一つピンとこなかった

あれから
美雨は調べた

モルフェウスという
夢の神に纏わる神話も

それを題材とした
モルフェウスとイリスという
絵画についても

あの時、杜の真意は
解らなかったけれど
杜が何を言いたかったのか
今ならわかる気がする

今の
美雨はそう思っていた

尚も雨は降り続ける

何もかもが、そのままなのに
明らかに杜はここにはいないのだ

それを示すかのように
絵の道具と描きかけのクロッキー帳
だけが、一緒に消えていた

静かな
静かな
アトリエ内に
無音という音が響く

窓ガラスに伝い流れる
雨粒を見ていると
自分の代わりに泣いてくれている
気がした

美雨は
もう、
泣くのはよそう

そう心に
決めた












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