モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
《杜side》


どれくらいぶりだろうか
太陽の光を浴びるのは

俺はアトリエの床に寝転がって
そのまま眠っていたところ
僅かにカーテンの隙間から
射し込んできたイタズラな
太陽の光によって目覚めた

俺は夢を見ていた
アトリエで眠る美雨の夢をーー

夢の中の美雨は泣いていた
思わず指でその涙をすくってやろうと
思うのに、美雨に触れる事が
できないでいた

まるで
幽霊か何かになってしまったかのように
俺の体は透けていた

ああ、
死んだのか

俺はそう思った

そうだ、
確か、俺はこの絵を完成させられるのなら
己の命も惜しまない

そう思いながらも
一心に筆を動かしていたんだ

まともに食うことも寝ることもせず
ここのアトリエ内に備え付けの
冷蔵庫から
ペットボトルの水を
取り出しては時折、飲み
何とか凌いでいた

俺は死んだのだな

そう思った

いや、
それはまずい

俺にはやらなければいけない事がある
その為にこの絵を完成させたのだ

我が身を削ってでも……

美雨
泣くな美雨

必ずお前の涙をすくいにいってやるから
お前が折れてしまうんじゃないかって
くらい
強く強く抱き締めてやるから

美雨ーーー

美雨の名前を呼んだ瞬間
一面に光が射し込んできたんだ

眩しくて
眩しくて

そして俺はーーーーー

ーーーー夢から目覚めたんだ





「夢かぁ……」

俺は確かに生きている
そして、
夢でなく
俺の目の前には描き上げたばかりの
絵があった

俺の全ての思いを注ぎ込んだ
渾身の作品が

今、目の前に存在する

それを確認すると
これからの為に
俺はもう少し眠る事にした

美雨の笑顔に夢で逢えるようにと
祈りながらーーー






眠りに堕ちた



















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