続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】



マンションの玄関ホールで これから塾へ行くという中学生に 

頑張れよと声をかけ

エレベーターの中で会ったご近所さんに 愛想よく挨拶をする

玄関ドアを開けると ”おかえりなさい” と エプロン姿の円華が

笑顔で迎えてくれるのだ


すでに夕食の準備が出来ていて 

ご飯? それともお風呂?

どこかで聞いたドラマの台詞のような会話が交わされる

キッチンに立つ円華の後ろから肩を抱いて 今日のメシは何?

なんて 肩越しに円華の手元を覗き込むのも楽しかった





「ご飯を食べながら 何をニヤニヤしてるの? なんだか今夜の要って変よ」


「そうかぁ? なーんかさぁ 二人でメシを食うのっていいなぁと思って」


「そうだね ここんところ私の方が帰りが遅かったもんね 

ご飯だって作ってもらってばかりで 仕事を優先しちゃってたし 

ごめんね……」



泣き顔になりそうな円華に 慌てて言い訳をした



「違うよ そんなこといってるんじゃない 

家事を分担するってのは 結婚するときに決めたじゃないか」


「でも 要に頼ってばっかりだったよね 今週は早く帰ってくるから 

私が作るね」


「仕事は?」


「終業時間がきたら 課長が早く帰れってせかすの 

部長まで出てきて 工藤君に申し訳ないからって 

ふふっ 要って すごい顔して課長に会いに行ったそうね」


「殴りこみに来たみたいだって言われた」



円華の顔が泣き笑いになり 腹を抱えて笑っている

殴り込みって どんな顔だったの? なんて言われても困るじゃないか

笑いのツボにはまったみたいに 円華がカラカラと笑い続ける

笑えばいいさ 胃が痛いって辛い顔を見るよりずっといい


このまま楽しい食卓のはずだったのに つい余計なことを思い出した

聞かなきゃいいのに 頭より先に口が動いていた



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