続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】



お義父さんの喜びは予想以上で 今夜は飲み明かすのかと覚悟していたが 

俺を相手に酔いも早く 嬉しそうな顔をしながら居間で早々に寝てしまった



「お父さん 待ちに待った知らせだったもの 

要さん つき合わせてごめんなさいね」


「いいえ 俺も嬉しいですから」



真っ赤な顔をして寝てしまったお義父さんを抱え 寝室に運ぶ俺に 

お義母さんが申し訳なさそうに謝る

飲みながら よくぞやったと俺の肩を叩き その度にグラスを合わせて

”乾杯” と叫んだお義父さん

子供ができるのを こんなに待っていたんだと鼻の奥がツンと熱くなった


居間に戻ると それまでおいしそうに食事をしていた円華が 

頬を膨らませ愚痴っていた



「妊婦になったら どうしてカニを食べちゃいけないの? 

もぉー楽しみにしてたのにー!」


「アレルギーが出たら大変でしょう お母さんがそうだったの 

アナタがお腹にいるとき カニを食べて大変な目にあったのよ

親子なんだから体質が似てるかもしれないでしょう 妊娠したら体が変化するの

今までなんともなくても これからは細心の注意を払わなくちゃね」



楽しみにしていたカニを こんな理由で取り上げられ 円華はいたく

機嫌が悪かった

まさか俺だけ食べるわけにもいかず カニをもらうのを固辞すると 

お義母さんが感心したように娘に言う



「まぁ 優しいダンナ様ねぇ 円華 アナタ幸せ者よ 

妊娠中は気をつけることが多いから 避けたほうがいいことは 

要さんに言っておいた方が良さそうね」



ぶーっとむくれた顔は治らなかったが お義母さんの言葉に 不承不承頷いて 

その日は カニの香りだけをもらって帰宅した




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