日々


「…どしたの大輝、イケメンになっちゃって」



にやけながら、
前を歩く背中に声を掛ける。



「あーあぁー、照れる。今のなし」


「いやいや、無理だから。
もう心に刻んじゃったから」


「刻むなよ…」


「だって嬉しいじゃん?まさか大輝に
そんな言葉を掛けられるなんて…」



人混みから抜け出し大輝が振り返った。
そしてまた笑う。照れすぎだろ、お前。



「忘れろよ…」


「ムリだな」



小学生の頃の俺は、
大輝の後ろを歩くことが
当たり前だったんだ。


俺が地元の中学に上がらないと知って、
周りの友達がお別れ会をしてくれたとき、
大輝は一言も話さなかった。


それが悲しくて、大輝とまた話したくて、


いつも引っ張ってくれる大輝は、
俺にとって憧れの存在だったから。



だから中学で陸上部に入ったんだ。


『陸上部に入れよな!
試合開場で待ってる!』

…なんて、言われたから。



そんな大輝とは、
年に二回の試合開場で会えた。


でもそれ以外で会ってはいない。


高校に入ってからも一度も。


< 356 / 535 >

この作品をシェア

pagetop