渚の平凡物語
試練ですかイジメですか

友よグッバイ

「ねぇ渚ちゃん、今日も一緒に食べていい?」

 お願い、と細い指先を合わせて頼み込むのは、尋常ではないオーラを放つ姉。
 お弁当箱を包む布の結び目を解いていたあたしは、ちらと周囲の友人を見ると──

 やめて。お願いだから断って。

 と言葉に出さずに訴える友人たち。若干涙目なのは、教室中の視線に耐えられないからだろう。
 あたしだってご遠慮したい。でも、断ったら? 絶対何か言われそうな気がするんだよな。

 モブキャラの友達はモブキャラ。存在感や容貌は似たり寄ったりのあたしたち。彼女たちがこのプレッシャーにめげそうになっているのはよくわかる。あたしなんて家でも彼女と一緒なんだから。どんだけ胃にダメージがあると思っている。

「……」
「あ、えと……ダメ?」

 しゅんと落ち込む姉のおかげで、殺気混じりの視線があたしに降り注ぐ。死ぬ。死んでまうっ。

「えー……と。お、屋上で一緒に食べない?」
「! うん!」

 ぱっと顔を上げた姉はもう機嫌がよくなってやがる。あたしはげんなりしつつ友に別れを告げて、行きたくもない屋上に向かうのだった。

 まさかこれが日常化するとも思わず。
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